コスト、景観、騒音も…「環境にやさしい」風力発電に逆風
2008-04-07 [記事URL]
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地球温暖化問題と原油高を受け、世界で風力発電所への投資が活発化し、日本でも1000基を超える風車が各地で稼働している。CO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスを排出せず、「環境にやさしい」とされる風力発電だが、風車がもたらす景観への悪影響や騒音などが問題化。さらに電力会社への売電価格のダウンで投資回収の実現も不透明になり、事業者の新設意欲にブレーキがかかってきた。国は平成22年度の「総容量300万キロワット」の風力発電の導入目標を掲げるが、“逆風”を受けた業界からは達成を危ぶむ声が出始めるなど、曲がり角を迎えている。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、全国の風力発電施設は19年3月末で1314基(総容量約149万1000キロワット)。15年度末からわずか3年で施設数は倍増した。
兵庫県の淡路島では昨年8月、南あわじ市内で関西最大規模の民営の風力発電所が稼働を開始、出力2500キロワットの風車15基が林立する。関西電力グループは淡路市内で出力2000キロワットの風車12基を建設するプロジェクトを進めている。大阪ガスグループも高知県津野町で風力発電所を運営する企業に資本参加するほか、今年秋ごろ、和歌山県で風力発電所の運転を開始する予定だ。
風力発電の急伸は、風力や太陽光などで発電した電気の導入を電力会社などに義務づける「RPS制度」が15年にスタートしたことが大きな要因。太陽光発電に比べ初期コストが安い風力売電ビジネスは脚光を集め、企業の投資が活発化したためだ。
しかし最近、発電施設の新設意欲に水を差す出来事が相次いでいる。まず、ビジネスの成否に直結する入札による売電価格の相場が下落したことだ。当初は1キロワット当たり11円台だったが、今では9~8円台にダウンした。ある大手風車メーカー幹部は「業界からは『こんな安い値段では投資回収ができない』と悲鳴が上がっている。300万キロワットという国の導入目標が達成できない可能性もある」と打ち明ける。
単位発電量当たりのコストダウンを狙い、出力1000キロ超の大型風車の導入が進むが、巨大化する風車に景観への懸念も広がり始めた。
来年夏の運転開始に向けて工事が進む「新出雲風力発電所」(島根県出雲市)では、日本で初めて出力3000キロワットの欧州製大型風車を導入し宍道湖の西岸部に26基を設置する。総出力7万8000キロワットは国内最大規模。しかし、計画段階で「大きな風車は夕日が美しい宍道湖の景観にマイナス」と東岸部の松江市などからクレームがつき、風車タワーを低くする設計変更などに追われた。
また、愛媛県伊方町では「騒音で夜眠れない」との住民からの苦情で一部の風車は夜間運転を見合わせている。台風や落雷などによる風車被災も各地で発生、ビジネスリスクが高まっている。
欧米や中国などで風力発電への投資が伸び、総容量ではドイツが世界のトップを走り、日本は13位だ。ドイツは風力発電の電気などを一定価格以上で電気事業者に買い取ることを義務づける「固定価格買い取り制度」を採用。十分に採算がとれる売電価格が保証され、風車への投資リスクが少なくなり、個人やNPOが出資した「市民風車」の建設が盛んだ。
市民風車は日本ではまだ11基にとどまる。空白エリアの関西で市民風車の建設を目指す「自然エネルギー市民の会」(大阪市、約180人)の早川光俊事務局長は「投資リスクを減らすため、日本は現行のRPS制度ではなく固定価格買い取り制度に転換すべきだ。買い取りの上乗せコストは電気料金に転嫁されるだろうが、消費者が『環境コスト』を担うことも必要だ」と強調している。