温暖化対策に貢献
2007-05-09 [記事URL]
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地球表面の7割を占める海は、毎年約20億㌧の二酸化炭素(CO2)を吸収している。これは、全世界の1年間の化石燃料燃焼によるCO2排出量の約3分の1。海のCO2吸収量が今後どう推移するのかを探ることは、気候変動予測や温暖化対策に役立つため、国内でも船舶による観測やブイを使った自動観測装置などの研究が進んでいる。
◇大気の60含有
海は大気中の約60倍のCO2を海水中に溶け込ませており、一部は植物プランクトンの光合成に利用されている。大気中のCO2濃度(379ppm)はより海洋の濃度が低くなると海洋はCO2を吸収、大気中より高くなると放出する。
CO2の排出が増えて大気中の濃度が増加すれば、理論的には海洋の吸収量も増えるが、東京大海洋研究所の植松光夫教授は「温暖化で海洋表面の水温が上昇すると、表層域と深層域との水温差が広がり海水が混ざりにくくなる。深層域からの栄養分の供給が減るので、光合成のためのCO2を取り込む表層域の植物プランクトンも減少し、CO2吸収量が減ることもある」と説明する。
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が01年に出した第3次報告は、海洋によるCO2吸収量は21世紀中に40億~60億㌧に増えると予測した。
一方、今年2月の第4次報告では、地球温暖化によって、人為的な排出量に対する陸と海洋のCO2吸収比率が下がり、大気の残留比率が増えるとの見解が示された。吸収量は現在のペースでは増えないとしている。
国立環境研究所地球環境研究センターの野尻幸宏副センター長は「今後、CO2の吸収量がどうなっているかを探るには、より詳細な観測データが必要だ」と話す。
◇貨物船に観測器
特定の観測船を使う長期観測は予算面などで限界がある。同研究所は長期貨物船に機器を取り付けて、海洋表面のCO2観測を95年から続けている。表面のCO2濃度がわかれば、モデルにあてはめることで、その海域のCO2吸収量を導き出せるからだ。
現在も日本の船会社の協力を得て、北米と豪州の2航路で観測中。こうした取り組みは欧米にも広がり始め、北半球のデータは集まりつつあるが、南半球は乏しいのが、現状という。
◇自動採水の成果
海洋研究開発機構むつ研究所(青森県むつ市)はCO2の吸収量が多いことで知られるカムチャツカ半島南方沖800㌔の北太平洋海域(水深5200㍍)で、05年3月から1年以上連続して海水を自動採取することに成功した。研究グループの本田牧生サブリーダーは「一度設置すれば、1年後にサンプルを回収するまで放っておいても観測可能なのがメリット」と説明する。
観測装置は全長約5000㍍以上もあるワイヤーロープの先端にブイが付いたもので、装置を海底に係留すると表層でブイが浮く仕組みだ。自動採水装置は水深40㍍に、植物プランクトンの殻などを集める装置は水深150㍍に取り付けられた。
同グループの研究は、海のCO2濃度を直接観測するわけではないが、CO2の吸収に大きな役割を果たしている植物プランクトンを通じて、CO2が海中で循環する過程を解明しようとする狙いだ。海洋のCO2吸収量は風や水温などの影響を受けるため、海域や季節によって異なるが、一般的に海の表面に栄養分が多い海域では、植物プランクトンによる光合成が活発なため、吸収量が多い。
本田さんは「植物プランクトンが増殖した7月には、増殖後に死んだプランクトンの死骸として有機炭素が速やかに深海部に運ばれたことが、1年間の観測で分かった。海外の研究機関と協力しさまざまな海域で観測を進め、地球温暖化研究にも役立てたい」と話す。