重油流出と海の生態系
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4月22日にアメリカ南部ルイジアナ州沖の石油掘削施設で大規模な爆発が発生
し、大量の原油が海に流出するという事故がありました。原油の流出は今もまだ続
いており、1日あたり約500キロリットルから4000キロリットルと推定されており、
事故が収束するまで約3ヶ月掛かるとも言われている為、総流出量は4万トンから
30万トンにもなると現在予測されています。
この事故により自然環境、社会生活、漁業、観光業への悪影響が懸念されていま
したが、既に漁業地域で原油に塗れ、死んでしまっているカツオドリが2羽見つか
る等、目に見える形で重油による悪影響が現われ始めています。
重油の流出現場には絶滅危惧種のウミガメやイルカが生息しており、重油によっ
て生態系に重大な悪影響を及ぼしてしまうのではないかと言われています。環境
保護団体によると、野鳥や海洋生物など約400種が現在危険な状況に晒されて
いるのです。
また、今回の事故は野鳥や海洋生物への影響だけでなく、多くの生物が餌として
いる、海底の堆積物に生息している二枚貝やチューブワームやプランクトンが原油
で死滅する可能性があります。
原油に塗れてしまった鳥など比較的大きな生物は救援隊員が鳥の体を洗い、治療
する事が可能ですが、人間の手ではプランクトンなど小さな生物から原油を取り除く
事は出来ません。
二枚貝やチューブワーム、プランクトンなど小さな生物は食物連鎖の最下層に位置
している重要な生物です。最下層の生物が全滅してしまった場合、生態系のバラン
スが崩壊し、様々な生物も絶滅してしまう可能性があるのです。
海の生態系のバランスが崩壊すると、海洋生物の多様性が失われる事になります。
日本でも、スーパーなどでも売られている魚の種類が少なくなっているなど、影響が
出ています。海の魚が減っても養殖があるから大丈夫と思うかもしれませんが、魚の
養殖を行う際にも、大量の小魚などの餌が必要になります。
過去の大きな油流出事故は1978年に発生したアモコ・カジス号による英仏海峡
一帯を汚染した事件、1989年のエクソン・バルディーズ号によるアラスカ湾を汚染
した事件、1997年に日本海沖で発生したナホトカ号の事件があります。
いずれの事件も今回のメキシコ湾で発生した重油流出事故と同様に、海に大きな
被害を引き起こしています。たった1回の事故だとしても、海洋生物や海そのもの
にも深刻なダメージを負わせ、元の海の環境に戻る為には長い時間が必要です。
油流出事故による各国の準備・対応・協力体制を目的として、国際海事機関がOP
RC条約(1990年の油による汚染に関わる準備、対応及び協力に関する国際条約
または油濁事故対策協力条約)を採択し、2006年2月現在、86カ国が締約してい
ます。
今回の重油流出事故を一刻も早く収束させる為には各国の協力体制、対応が要
となってくるでしょう。これ以上、この様な事故や事件で環境に対して被害を出さな
い為の対策をどう行っていく事が各国の取り組むべき課題になると思います。